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大阪地方裁判所 昭和39年(行ウ)11号 判決 1967年7月15日

原告 定久昇

被告 城東税務署長

訴訟代理人 川井重男 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)<省略>

(当事者双方の主張)

第一、原告主張の請求原因<省略>

第二、被告の答弁ならびに主張

一、被告の答弁<省略>

二、被告の主張

(一) <省略>

(二) 右収収入金の推定計算について。

1 推計課税の適法性について。<省略>

2 収入金額推計計算の方法。

(1) の方法により推計される総客人員(一〇、〇二七人)に、(2) の方法により推計される収入単価(一六八円八五銭)を乗ずる。(別紙算式(一)の(4) )

(1)  年間総客人員について。

本件の如き業種においては、調髪、丸刈の客につき、一人当り一枚を使用する衿紙の消費枚数より客人員を推計することがもつとも合理的であると考えられるので被告はこの方法により客人員総数を推計した。

(イ) 先づ、原告の衿紙仕入枚数は一九束であつて、一束五〇〇枚であるから、原告の当該年度の紙の消費枚数は九、五〇〇枚である。(別紙算式(一)の(1) )

(ロ) 本来、衿紙はその使用目的より思考すれば、他の材料の如き仕損じ等のロスはないのであるが、散乱等による使用不能を考慮し、五%を消費枚数より控除すると使用枚数は九、〇二五枚である(別紙算式(二)の(2) )。衿紙を使用する客人員は衿紙一枚につき客一人であるから九、〇二五人である。

(ハ) 衿紙を使用する客は、調髪、丸刈の客のみであり、それ以外の客には衿紙を使用しない。そして衿紙を使用しない客数は総客数の約一〇%にあたるものと認められる従つて、総客人員は一〇、〇二七人である。(別紙算式(一)の(3) )

(2)  年間平均収入単価について

被告が部下職員をして昭和三六年一〇月一八日に原告の所得につき調査せしめた際、原告は、調髪(洗髪なし)は二二〇円、他の施術についても一般同業者と同じ料金と申し立ててい。たしかるに原告は審査請求の段階においては、協議官が本年度分における料金について原告に質問するも、原告は忘却したと申し立てるのみで回答が得られなかつたため、やむを得ず原処分における原告の申立に同業者より探聞せるところを勘案の上その金額を推定したものである。原告の当該年間の平均収入単価は別紙記載表(一)の被告主張欄のとおり、金一六八円八五銭である。

3 右推計計算の合理性。

(1)  昭和三三年四月、大阪府理容環境衛生同業組合の調査によると、同年分の平均収入単価は金一四三円三六銭である。(施術別の詳細は別表二のとおり。)

(2)  昭和三三年度に対する昭和三六年度の収入の増加割合は、昭和三八年度版「国民生活白書」(経済企画庁編)の第三次産業活動を現わす指標、すなわち、サービス業のうち理容業、浴場、洗濯、洗張業、貸席、旅館、下宿業の指標として昭和三〇年度を一〇〇とした場合、昭和三三年度の指標は一三四・八で同三六年度の指標は二〇〇・三である。従つて昭和三三年度に対する昭和三六年度の収入の増加割合は一四八・五%となる。 (別紙算式(二)の(1) )

(3)  (1) の昭和三三年分の平均収入単価金一四三円三六銭に、(2) の収入増加割合一四八・五%を乗じて同三六年分の平均収入単価を推計すると、金二一二円八八銭となる。(算式(二)の(2) )

なお、これは施術区分「その他」の料金を含まない場合の平均収入単価であり、「その他」の料金については組合の調査がなされていないので、被告の調査した施術区分「その他」の平均収入単価金一三四円九〇銭(別表(一))を含めて平均収入単価を算定すると金二〇八円九七銭となる。(算式(二)の(3) )

したがつて、被告の主張する平均収入単価金一六八円八五銭は、右の推計による平均収入単価金二〇八円九七銭をはるかに下廻るものであるからいささかも不当な金額ではない。

(4)  被告主張施術区分割合(別表(一))は、別表(二)の(注)に記載した方法によつたものである。なお、この計算には、前記適正化規程のうち「基準料金算定準則」の「椅子一台当り一ケ月間の施術別平均客数」に記載されている「その他」の客数を含めたところによつたほか、計算の便宜上五%単価に修正したものである。(算式(二)の(4) )

この場合修正された区分割合により算定すると、平均収入単価は金一六八円八五銭であり、これを修正前の区分割合をもつて同方法により算定すると平均収入単価は金一六九円二六銭となる。したがつて、修正された区分割合を適用したことは何等不当ではない。

(三) 以上のとおり原告の昭和三六年度分の収入金額は金一、六九三、〇五〇円と推計すべきところ、右収入金額から前記必要経費(七四八、一七九円)および事業専従者控除額(七〇、〇〇〇円)の合算額を控除して得られる原告の昭和三六年度分所得金額は金八七四、八七一円であり結局右金額の範囲内で、原告の所得金額を金四七四、〇〇〇円とする本件処分は適法である。

第三、原告の答弁ならびに主張

被告主張の必要経費(七四八、一七九円)および事業専従者控除額(七〇、〇〇〇円)は認めるが、収入金額(一、六九三、〇五〇円)は争う。

収入金額についての被告の推定計算は不当である。従業員は原告を含めて五名である。又、原告が資料の掲出を拒否し、調査に非協力であつたとの主張は否認する。

(仮に、推定計算によるとした場合の原告の計算方法)

当該年度の衿紙の消費枚数が、九五〇〇枚であることは認めるが(別紙算式(一)の(1) )、使用不能のロス分は一〇%であるから、衿紙使用枚数は八、五五〇枚である(同(一)の(2) )。従つて、衿紙使用客数も八、五五〇人である。衿紙を使用しない客数は使用する客数の一〇%(八五五人)であるから、総客数は約九、四〇〇人である(同(一)の(3) )。

一方、当該年度の収入単価は別紙表(一)の原告主張欄のとおりであるから、これに右総数を乗じた収入金は、金一、〇一九、九〇〇円となり(同(一)の(4) )、この金額より前記必要経費ならびに事業専従者控除額を差引いて得られる金額が原告の当該昭和三六年度の所得金額である。

<証拠省略>

理由

一、請求原因(一)(二)(三)の事実については当事者間に争がない。

二、原告の所得金額について。

(一)  収入金額の推定計算の適法性について。

証人竹村保男の証言によると、同証人が国税局協議官として、昭和三八年四月頃、本件裁決決定のため原告の同三六年度分の所得を調査した際、原告は、必要経費については領収書伝票等の原始記録を保在していたこと、収入金については、ノート様のものに日日の収入合計額を記載した帳簿を提出したこと、右帳簿は筆跡等から判断してある期間の収入金を一度に連続的に記帳したもので必ずしも正確に日日記帳したものとは認められなかつたこと等が窺われ、一方、<証拠省略>によると、原告は右竹村証人の調査前の段階で、調査担当官(乙第一号証の作成者)に対して記帳をしていない旨を申立てたことも窺われ、右認定に反する原告本人尋問の結果の一部は前掲各証拠に照らし措信し難い。右各認定事実と原告が右帳簿を証拠として提出しないことを併せ考えると、原告の記帳した右収入帳簿は正確に日々記帳された信憑性の高いものとは認められないから、本件の如く事後調査の因難な業種においては、その収入金額については、推定計算に頼るのも止むを得ないものと認められる。

(二)  原告の営業料金について。

<証拠省略>によると、被告は、右竹村協議官が当該年度における理髪料金について、原告に対して質問するも、原告がこれに回答しなかつたため、城東区内の同業者を調査して大阪府理容環境衛生同業組合城東支部の組合料金を探聞のうえ、その金額を推定したことが認められるが、実額課税を原則とする以上、仮え推計の許される本件にあつても、可及的に実額認定をなし、これの可能な範囲では推定計算を避けるべきは論をまたないところ、<証拠省略>によると、原告は当該年度において、開店中は店頭に前記組合の料金表を掲げていたことが窺われ、右事実と<証拠省略>とを併せ考えると、原告は当該年度においては、右組合料金表に従つて営業をなしたことが認められ、右認定に反する<証拠省略>の結果の各一部は前掲各証拠に照らし措信し難く、他に右認定を覆するに足る証拠もない。

(三)  原告の所得金額の推計計算。

<証拠省略>によると、乙第四号証の一は昭和三六年三月以降同年六月末までの、乙第四号証の二は同年七月以降同年一二月末までの城東支部の料金表と認められるから前認定に従い昭和三六年三月以降同年一二月末までの料金はこの表によつたものと認められる。しかし乙第四号証の二の料金表によれば昭和三六年七月以降同年一二月末までの丸刈は一七〇円、顔剃は一五〇円であるが、被告はこの期間の丸刈は一四〇円、顔剃は一二〇円と主張するのでこの期間の丸刈は一四〇円顔剃は一二〇円と認定する。更らに前認定によれば原告は料金表に従つて営業したものというのであるが、昭和三六年一月以降同年二月末までの料金表は証拠として提出されていないのでこの期間の料金額のよりどころがない。しかし原告が料金表に従つたと認められること前記のとおりであり、しかも原告は表(一)の原告主張欄の如き料金であつた旨主張するので原告のこの主張額がこの期間の料金であつたと認める。またその他の料金については乙第四号証の一、二によつてもどれをもとにして料金を把握するのか明確でないので、前同様昭和三六年の全期を通じて原告の主張する料金額であつたと認める。別表(二)区分割合は成立に争のない乙第二号証(大阪府理容業適正化規程)によれば昭和三四年度の調査に基づくものと窺われ、それ自体は相当合理的根拠により算出されたものと認められるのであるが、原告の店舗の位置、開店後の日数が少ないことなどの諸事情、しかも本件は昭和三六年度のことであることともを考え併せると、本件の原告の場合に直ちに適用することはできない。他に真実に近いと思われる区分割合を認めるに足る証拠はない。それで原告が自ら主張する別表(一)の区分割合を採用する。

しかして、昭和三六年における衿紙の仕入数は一九束、一束五〇〇枚、合計九、五〇〇枚であることは当事者間に争のないところである。その内ロスは被告は五%であるから衿紙使用の人数は九、〇二五人、衿紙使用の人数は全体の九〇%であるから総人(客)数は一〇、〇二七人であると主張しているのであるがロスが五%であること、衿紙使用人数が総客数の九〇%であることを認めるに足る確たる証拠はない。そこで原告は、ロスが一〇%、衿紙使用人数は八、五五〇人、衿紙を使用しない人数は使用人数の一〇%、八五五人であると主張するのでいまこれを採用する。すると総人(客)数は九、五〇五人となる。右の認定に従つて平均収入単価を計算すると別紙表(一)の裁判所認定欄のとおり金一五五円六四銭となる。

(尤も、右計算は、被告主張の施術区分と右乙号証記載の区分が必ずしも一致しないため、原告に不利とならない様各乙号証の該当欄の最下値をもつて認定したものである。又各月別の客人員を同一と推定したものであり、右推定は本件原告の業種を考えれば、極めて合理的であり、しかも、通常一、二日の営業日数が少いことを勘案すれば、原告に対し有利でこそあれ、決して不利とは思われない。)

右平均収入単価に、原告の主張する総客数(九、四〇五人)を乗ずると、原告の当該年度の収入金は金一、四六三、七九四円となり(別紙算式(一)の(4) )、右収入金額から当事者間に争のない必要経費(七四八、一七九円)および事業専従者控除額(七〇、〇〇〇円)の合算額を控除すると金六四五、六一五円となり、右は本件更正決定をなすにつき原処分庁の認定した所得金額を上廻ること明らかである。

三、以上のとおりであつてみれば、その余の点につき判断するまでもなく原告の請求は失当であるから、これを棄却することとする。

訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 藤原弘道 光辻敦馬)

別紙算式(一)、(二)<省略>

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